EMDRとは?

 簡単に言うと、過去の心の傷を緩和したり、トラウマ治療に用いるカウンセリング手法です。

 EMDRというのは、「Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理法」の略です。
 EMDRの説明をする前に、まずは「トラウマ」の説明をさせて下さい。

 トラウマという言葉は、最近はよく耳にするようになってきたように思います。大きな災害、事故、病気などの深刻な体験の後に、急にその体験を思い出して辛くなることや、不眠や動悸などの身体的症状がずっと続くことがあります。そのきっかけになった体験自体が思い出せないこともあります。多くの場合そのような体験があっても、時間が経つにつれて自然にその痛みが和らいでいき、思い出の一つとなっていきます。それは身体的な傷が、やがて治っていくのと同じように心にも自然治癒力が備わっているからです。しかし時間が経っても、その体験の映像やその時の感情・体の感覚が混乱したまま維持されることがあります。またその影響で「私はだめな人間」「私は弱い人間」というように自分のことを必要以上に否定的に見てしまったりすることもあります。なぜそうなるのでしょうか? それは、脳の情報処理の機能がうまく働かず神経系統に混乱が起こっていると考えられています。このような状態をトラウマと言います。

 EMDR は、このような日常生活を妨げる症状や感情的な苦痛から人々を癒すことができる心理療法です。1989年にアメリカのフランセス・シャピロという心理学者がEMDRを考案しました。シャピロは元々は行動療法家・行動主義心理学者だったため、EMDRを学習心理学や学習効果の観点から研究を進めていきました。しかし、EMDRの臨床研究や実践を行っていると、その観点からでは説明のつかない事柄が多数出てきました。そのため、今日ではEMDRは行動療法というジャンルから飛び出し、脳の情報処理過程の観点からEMDR研究が進められるようになりました。

    繰り返される研究は、クライアントがEMDR療法を受けることにより、かつての心理療法では改善に何年もかかったものをより短い時間で経験をできることを示しています。重度の感情的な痛みは、治癒するのに長い時間がかかると広く考えられています。  EMDR療法は、身体が身体的外傷から回復するのと同じように、心が実際に精神的外傷から治癒できることを示しています。 

 EMDRはPTSD(心的外傷後ストレス障害)に対して、証明のある心理療法です。さらに、他の精神科疾患、精神衛生の問題、身体的症状の治療にも、学術雑誌などに成功例がしっかり記述されています。

 EMDRは、適応的情報処理(AIP)というモデルに基づいています。このモデルでは、精神病理の多くが、トラウマ的な、もしくは苦痛でいやな人生経験が、不適応的にコーディングされた、もしくは、不完全に処理されたことによると仮定されています。これにより、クライエントは経験を適応的に統合する能力に障害を受けます。

    EMDRの8段階、3分岐の過程が健常な情報処理、統合の再開を促します。この治療アプローチでは、過去の経験、現在の引き金、未来の潜在的挑戦をターゲットにし、現在の症状を緩和し、苦痛な記憶からストレスを減じたり、除いたりし、自己の見方が改善し、身体的苦痛から解放され、現在と未来の予測される引き金が解決するのです。1989年にアメリカでFrancine Shapiroという臨床心理学者がEMDRを発表して以来、今日までに全世界で40,000人以上の心の専門家(精神科医、臨床心理士など)がこの方法のトレーニングを受け、2,000,000人以上の人が治療を受けています。近年EMDRはトラウマ治療だけではなく、うつなどの感情障害やパニック障害などの不安障害などへも検証されつつあり、適応がひろがってきています。